大判例

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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)16号 判決

原告 柏倉重勝 外二名

被告 山形県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が原告等の訴願について昭和二十六年七月二十三日附でした訴願棄却の裁決を取消す。昭和二十六年四月二十三日に執行された山形県南村山郡上山町議会議員選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、上山町議会の議員定数は従来二十六名であつたところ、昭和二十六年三月三十日の同町臨時議会で議員渋谷善秀外十四名提出の「町議会議員減数提案書」なる議案に基いて、右議員定数を四名減員して二十二名とすることに決議された。そこで上山町長松本長兵衛が同議決に基いて即日「上山町議会議員の定数減少条例」議案を同議会に提出しその議決を経て、その翌三月三十一日右条例を公布したことになつている。そして同年四月三日右条例に従い議員定数を二十二名として上山町議会議員の選挙告示がなされ、同月二十三日その選挙が行われ、議員二十二名だけの当選が確定した。

しかしながら、右条例には次のような重大な瑕疵があるから当然無効であり、従つて之に基いて行はれた右上山町議会の議員選挙も無効といはなければならない。即ち、

(一)  前記上山町議会議員の定数減少条例はその成立過程に瑕疵がある。

けだし右条例は前述するように、昭和二十六年三月三十日の臨時議会で議決されたことになつているが、地方自治法第百二条には「臨時会に付議すべき事件は普通公共団体の長が予めこれを告示しなければならない。但し急施を要する事件があるときには之の限りでない」と規定されている。然るに右条例案は上山町々長が予め之を告示していないのみならず、同年四年二十三日の地方議会の議員選挙は、以前から予定されていたことであるから、右条例案は決して予め告示する余猶のないほどの急施事件ではない。殊に地方議会の構成を変更する重大な本件の如き条例案は、予め之を告示し、町民の輿論に訴へ、且町議員に其の研賛の時を与えて議決されるところに現代法治国社会の合法性がある。然るに右手続によらない本件条例は、急施事件でないと同時に、右の合法性に背反する無効のものである。

(二)  右条例は議会が之を議決していないし、其の施行期日も明示されていなかつた。

前記臨時議会において、議員提出の「議員減数案」が採決決議された後、上山町長は「その決議案の処置については役場に委せて貰い度い」と発議し、多数議員が之に賛成したのみで、決して例の第三十八号議案即ち「上山町議会議員の定数減少条例」議案なるものは、同議会に提出されておらず、従つて議決もなかつたものである。仮に議員定数減少条例が有効に成立したとしても、その施行日が決議されていないから、其の効力が発生したのは地方自治法第十六条により公布の日から起算して十日を経過した日、即ち同年四月十日からである。そうすると前示四月三日の選挙告示は、効力の発生しない条例に基いた無効のもので、之に従つて為された同月二十三日の上山町議会議員の選挙も無効のものといわなければならない。

以上の理由で右選挙においていずれも選挙人であつた原告等の内原告柏倉重勝は、昭和二十六年五月六日上山町選挙管理委員会に対し、右上山町議会議員選挙の効力に関する異議申立をしたが、同月十日棄却されたので、原告等三名は、同月三十日更に被告委員会に訴願したところ棄却せられ、その裁決書が同年八月一日原告等に送達されたので、茲に右訴願裁決の取消並びに昭和二十六年四月二十三日執行された右上山町議会議員選挙を無効とする判決を求めるため、本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告代表者は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、昭和二十六年三月三十日の上山町臨時議会で議員渋谷善秀外十四名から従来二十六名であつた議員定数を四名減員の二十二名とする議案が提出決議されたこと、同決議に基いて、上山町長松本長兵衛が同日開会中の同議会に「上山町議会議員の定数減少条例」設定の議案を提出議決を得て、翌三月三十一日右条例を公布したことになつていること、同年四月三日上山町議会議員の定数を二十二名として選挙告示をしたこと、同月二十三日同町議会議員の選挙が執行され、議員二十二名の当選を確定したこと、並びに右選挙において原告等がいづれも選挙人であつたが同年五月六日原告柏倉重勝が、上山町選挙委員会に対し選挙の効力に関する異議を申立て同月十日棄却され、更に同月三十日原告等三名が被告委員会に訴願したがこれ亦棄却され、その訴願裁決書が同年八月一日原告等に送達されたことは、いづれも之を認めるが、その他の事実は否認する。「上山町議会議員の定数減少条例」は、正当な機関が正当な手続を経て制定公布し、同条例に基いて選挙期日の告示をして選挙が行はれたもので、その管理執行について何等違法の点がないと述べた。(立証省略)

三、理  由

昭和二十六年三月三十日上山町議会の臨時会で議員渋谷善秀外十四名から従来二十六名であつた議員定数を四名減員の二十二名とすることを内容とする議案(建議案)が可決されたこと、同決議に基いて上山町長松本長兵衛が同日開会中の同議会に「上山町議会議員の定数減少条例」設定の議案を付議し、その議決を得て翌三月三十一日右条例を公布したことになつていること、同年四月三日上山町議会議員の定数を右条例に定めるとおり二十二名として選挙告示をしたこと、同月二十三日の同町議会議員選挙が行はれ定数二十二名の当選が確定されたこと、及び右選挙において選挙人であつた原告等中原告柏倉重勝が、同年五月六日上山町選挙委員会に対し、選挙の効力に関する異議を申立てたが、同月十日棄却されたので、更に同月三十日原告等三名が被告委員会に訴願し、これまた棄却され、その裁決書が同年八月一日原告等に交付されたことは、いづれも当事者間に争いがない。

原告は右議員定数減少条例案を付議した上山町議会が臨時会であるのに、上山町長は予じめ右事件を告示もせず、又急施を要する事件とも思われないのに、之を同臨時会に付議したのは違法である旨主張しており、同会が臨時会であつたことは被告も之を認めて争わないところであるが、右条例案を議会に付議するについては原告主張のような手続上の瑕疵があつたとしても、これがために議会で可決公布された条例が当然無効であるとはいえないのみならず、証人松本長兵衛の証言によると、上山町長、松本長兵衛は右臨時会以前には同町議会議員の定数減少に関する条例を設定する考えがなかつたので、予めその条例案の告示をしなかつたのであつたが、昭和二十六年三月三十日の右臨時会において議員提出の上山町議会議員の定数減少に関する建議案が決議されたので、この趣旨に従つて直ちに上山町議会議員の定数減少条例を設定して、次の総選挙から施行することを決意し開会中の同臨時会に右条例案を付議したものであることが認められる。そしてその当時同年四月二十三日上山町議会議員の任期満了による総選挙が行われることは、原告も主張している通り公知の事実であつて、その選挙告示が選挙の日から少くとも二十日前に行わなければならないことは、公職選挙法第三十三条第三項に明定されている関係上、右議会開会当日には選挙告示まで数日を余すのみであつたのである。かような事情の下における右条例設定こそ地方自治法第百二条第五項の『臨時会の開会中に急施を要する事件』に該当するものというべきであるから、前示臨時会に右条例設定案を付議したことは、違法ではない。

次に原告は上山町長松本長兵衛が、前示決議に基いて「上山町議会議員の定数減少条例設定案」を右決議後の同臨時会に提出してその議決を得て、翌三月三十一日右条例を公布したことに表面上はなつているが、実際は右臨時会において右議案を議決しておらない。殊に其の施行期日が明示されていなかつた旨主張するので審案するに、成立に争いのない乙第二号証(上山町議会会議録)証人松本長兵衛の証言によつて真正に成立したと認める乙第三、四号証、及び証人松本長兵衛、同相原太吉、同木村鋭助、同渡部清寿の各証言を綜合すると前記上山町議会において、議員提出の町議会議員定数減少に関する建議案はその審議に当り激しい討論の後同日午後五時頃賛成十五名、反対七名で可決したので、上山町長松本長兵衛は右決議に基いてその条例案を作成する必要上議長に休憩を申入れ、議長から暫時の休憩が宣せられたこと、その間右町長は吏員に命じて、

上山町議会議員の定数減少条例設定のこと

地方自治法第九十一条第二項の規定により、この町議会の議員の定数を減じて二十二人とする。

附則

この条例は次の総選挙から施行する。

旨の議案を作成させて、これを休憩後再会された議会に付議したのであるが、既に前示建議案付議の際充分論議せられたので、右条例設定案については、簡単な討議が行われた末採決に入り、賛成十五名、反対六名で可決確定し、同午後五時半頃閉会したこと、上山町長松本長兵衛は、之を翌昭和二十六年三月三十一日告示第三号として公布したこと、等が認められる。証人安部要蔵の供述中右認定に反する部分は採用することができない。又証人木村亀次郎、同神居善次、同木村庄次郎の各証言によつては右認定を動すに足りないし、成立に争いのない甲第一号証の記載は右木村庄次の証言に照し採用し難く、その他上記の認定を妨げるに足りる証拠はない。尚原告は右乙第二号証は後日の作成に係るものでその記載内容が信頼し難いもののように主張するが、議会会議録を即時作成し所定の人の署名を得ることは、その性質上理想的ではあるが、かようなことは事実上不可能に近く、会議録を完成するまでに多少の期間を経過することは止むを得ないところというべきである。しかも乙第二号証は証人木村鋭助の証言によると、議会閉会後約一週間でその作成が終つたことが認められ、その記載内容が真実に反することを確認するに足りる資料はない。

以上説明の通りであるから、上山町議会議員の定数減少条例は、適法に議決制定せられ、昭和二十六年三月三十一日公布して、その施行期日も右条例附則で、次の総選挙から施行する、と明示されているのであるから、右条例が無効であることを前提として本件選挙が無効であるとする原告の右主張は理由がない。

よつて原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)

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